説得の失敗は猗窩座に学べ:価値観を超えたチームの作り方
劇場版『鬼滅の刃』が、改めて考えるきっかけをくれた
こんにちは。先日、劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来をIMAX GTレーザーで見てきました。
映像美と巨大スクリーンの迫力に圧倒されつつ、改めて物語の奥深さに触れました。作品のタイトルに名前がある通り、スポットライトが当たっていた猗窩座の姿は過去のある名場面を強く思い起こさせました。
作中で特に印象深いのが、上弦の参・猗窩座(あかざ) と炎柱・煉獄さんのシーンですね。
猗窩座は、彼なりの敬意と善意から「お前も鬼にならないか」と最高の提案をします。しかし、煉獄さんにとってはそれが全く響かないどころか、侮辱でしかありませんでした。
この完璧なまでのすれ違い、私たちの職場でも日常的に起きていないでしょうか?
良かれと思って提案したのに、先輩や上司から「うーん…」「今のままでいいよ」と、なぜか渋い顔をされてしまう…。
そのモヤモヤ、実は猗窩座のコミュニケーションの失敗に、解決の糸口が隠されているのです。
今回は猗窩座の失敗を反面教師に、価値観が全く違う相手を「腹落ち」させ、ワンチームとなってビジネスを動かすための具体的な方法を解説します。
猗窩座の致命的なミス:「価値観」を無視した提案
作中で、猗窩座は煉獄さんに対し、「お前も鬼にならないか」と勧誘します。彼にしてみれば、「永遠の命と無限の強さを手に入れられる」という、最高の提案のつもりだったのです。
しかし、煉獄さんはこれを一蹴します。なぜなら、彼の価値観は 「限りある命の中で、責務を全うすることにこそ美しさを見出す」 というものだったからです。
猗窩座が「欠点」として提示した「老い」や「死」は、煉獄さんにとっては「愛おしく、尊いもの」でした。つまり、猗窩座の提案は、煉獄さんが最も大切にしている価値観を、真っ向から否定する「侮辱」に他ならなかったのです。
これは、ビジネスシーンでも頻繁に起こる問題です。
自分にとっては「効率化」という絶対的な価値も、相手にとっては「慣れたやり方を変えるストレス」でしかなかったり、「安全性」という価値を脅かすものに見えたりする。この価値観の致命的なすれ違いが、あなたの提案が響かない根本原因なのです。
価値観の壁を乗り越える!ビジネス説得術4ステップ
では、どうすればこの壁を乗り越えられるのでしょうか。
ここからは、明日からすぐにでも試せる具体的な4つのステップを紹介します。
ステップ1:相手の価値観を知るためのリサーチ
まず、いきなり提案するのはNGです。猗窩座は煉獄さんの「強さ(WHAT)」は認めましたが、その強さが「なぜ(WHY)」存在するのかを理解しようとしませんでした。
やるべきことは、相手を徹底的に観察し、相手が何を大切にしているのか(価値観) を知ることです。
- 普段の言動:「あの人はいつも『お客様第一』って言ってるな」「『部下の成長が一番』ってよく話してるな」
- 評価されているポイント:「あの人は丁寧な資料作りで評価されているな」「昔ながらのやり方で、ずっと成果を出し続けているのがあの人の強みだ」
このリサーチを通じて、相手の行動の裏にある「なぜ」を探ることが、全てのスタートラインになるんですね。
ステップ2:承認と共通点の確立 ― 対立から対話へ
リサーチで相手の価値観が分かったら、次は心からの承認を伝えることが重要です。いきなり自分の意見をぶつけるのは、相手に「敵」だと認識させてしまう最悪手だからです。
👎 悪い例(猗窩座型)
「そのやり方は古いです。これからは新しいツールの時代ですよ!」
👍 良い例(煉獄さん理解型)
「〇〇さんがいつも大切にされている『お客様との信頼関係』、本当に素晴らしいですよね。私もその姿勢、見習いたいです」
まずは相手の価値観や功績を具体的に承認し、「私はあなたの敵ではないですよ」というメッセージを伝えます。その上で、「会社の成長のため」「チームの目標達成のため」といった、共通の目的を見つけ出し、「私たちは同じ方向を向いていますよね」という対話の土台を築きましょう。
ステップ3:課題を共有し、有効性を問いかける
信頼の土台ができたら、いよいよ本題です。しかし、ここでも相手の価値観を否定してはいけません。
ここで重要になるのが、「その素晴らしい価値観を守り続けるために、今のやり方で本当に大丈夫でしょうか?」と、現状の有効性に優しく疑問を投げかけることなのです。
「〇〇さんが大切にされている『丁寧な仕事』を、今後も続けていく上で、今のやり方だと少し時間がかかりすぎて、新しい挑戦の機会を逃してしまっているかもしれません」
「若手の私たちが、〇〇さんのように高いレベルで仕事をするためには、もう少し仕組みのサポートがあった方が、早く成長できるかもしれないですね」
恐怖を煽るのではなく、「このままでは、自分の大切なものを守れないかもしれない」という課題意識を共有することが目的だと思います。
ステップ4:価値観を更新する解決策の提案
相手が課題を「自分ごと」として認識して初めて、あなたの提案が意味を持つようになります。
そして、その提案は「あなたの価値観を捨てる」ものではなく、「あなたの価値観を、より高いレベルで実現するための手段」として提示する必要があります。
👎 悪い例(猗窩座型)
「鬼になれ。そうすれば強くなれる」
👍 良い例(煉獄さん理解型)
「このツールは、ただの効率化ツールではありません。〇〇さんが大切にされている『お客様への価値提供』を、もっと高いレベルで、もっと多くの人に届けるための『武器』になると思うんです」
このように、相手の言葉や価値観を使って提案をリフレーミング(再定義) することで、あなたの提案は「異物」ではなく、相手の理想を「完成」させるための最高のパートナーとして映るはずです。
説得とは「変える」ことではなく「共に描く」こと
価値観の違う相手を動かすことは、決して相手を論破することではありません。
相手の世界観を深く理解し、心から敬意を払い、その価値観の延長線上に、より良い未来を共に描く「共同作業」 なのです。
猗窩座のように自分の正義だけを叫ぶのではなく、煉獄さんの心の炎に寄り添う。その姿勢こそが、あなたの想いを相手に届け、チームを一つにするための、一番の近道と言えるでしょう。
この記事が、あなたの明日からのコミュニケーションのヒントになれば幸いです。